イントロダクション

バングラデシュのHrishiparaに、76歳のスルタナ(仮名)が暮らしています。一見すると、農村で静かに暮らす、ごく普通のおばあさんのように見えるかもしれません。しかし、Hrishipara Daily Diaries Project(HDDP)のチームにとって、彼女は融資や少額預金を賢く活用し、堅実な判断を重ねながら、自立した生活を築き上げてきた女性です。

スルタナは2015年からダイアリストとして家計における日々のキャッシュフローの記録を続けています。彼女の人生は決して平坦なものではありませんでした。8年生(中学相当)まで教育を受け、親戚と結婚しましたが、夫は結婚早々に彼女を捨て、3人の子どもを一人で育てることになりました。農村部の低所得世帯において、これは長期的な貧困に陥る典型的な要因です。それでもスルタナは、働く意志を強く持ち続けました。絶望に屈することなく、籾殻むきの仕事や家畜の飼育で子どもたちを育て、稼いだお金を大切に貯め続けました。

計画的な借入と資産形成

1986年、スルタナは、その後の暮らしを大きく左右する決断をしました。グラミン銀行で借入を開始したのです。その後約40年にわたり、彼女はお金を借りるだけでなく、グラミン銀行が提供するさまざまな金融サービスを活用してきました。複数回の借入を驚くべき堅実さで返済しています。初期の融資は家畜の購入といった事業投資や、土地の購入、家の建築などに充てられました。

図1は、スルタナの年間の借入と返済の流れをまとめたもので、彼女がいかに着実に返済してきたかを示しています。図1から分かるように、比較的大きな金額を、主に週単位や月単位で計画的に返済し、何度もローンを完済しています。2025年末にはほぼ借金のない状態に達しているのは注目に値します。彼女は借入を収入増加と資産形成のために活用し、最終的には息子たちの海外移住の資金もまかなうことができました。

着実な貯蓄の積み重ね

多くの人は借入を事業成長のための手段だととらえていますが、スルタナは資産形成における貯蓄の重要性をよく理解していました。彼女はグラミン銀行の年金型預金や定期預金制度などを活用していました。当時は、7年たつと貯蓄額が二倍になるような金利だったため、資産形成に大いに役立ちました。さらに、HDDPディレクターのスチュアート・ラザフォードが主導する、低所得世帯向けの「ショホズ・ションチョイ」*という組合にも参加し、イージー・セービングという預金プログラムで毎日のように少額を貯蓄しました。

当初の貯蓄額は決して大きなものではありませんでした。グラミン銀行の年金型預金には月1,000タカ、普通預金には150〜200タカ、イージー・セービングには1日あたり20〜40タカといった具合です。しかし、これを継続することが大きな変化をもたらしました。

息子たちが海外から仕送りを送るようになると、彼女はまず借入を着実に返済し、残ったお金はすべて貯蓄に回しました。年金型預金で10年間の積み立てが満期になると、それを定期預金に再投資し、少しずつ資産を増やしていきました。このようにして、彼女は一つ一つレンガを積むように、将来の土台を築いていったたのです。

夢のマイホーム

スルタナにとって、最も大きな「投資」は子どもたちでした。貯蓄と借入を活用して、彼女は2人の息子、そして後には孫も海外で働けるよう送り出しました。12年間にわたり、長男はアグラニ銀行を通じて仕送りをし続け、次男はバングラデシュ最大のモバイル金融サービスであるbKashを利用して送金していました。

スルタナは、こうした仕送りをとても計画的に管理していました。借入を着実に返済し、貯蓄も維持しながら、2018年についに長年の夢だった土壁の家をコンクリート造りの家に建て替えるプロジェクトに取り掛かり始めました。

わたしたちが訪問した際、スルタナは自宅の設計図の写真を見せてくれました。彼女が思い描いていたのは、子どもや孫たちも含めた家族全員が一緒に暮らせる三階建ての家です。基礎工事だけでも170万タカを費やしましたが、その多くは長年の貯蓄から賄われました。2025年時点で、すでに複数の部屋が完成し、一階部分の建設も終えています。

おわりに

現在76歳となったスルタナはまだ引退していません。今もベビーシッターとして働き、得た収入をこつこつと貯め続けています。「なぜ今でも貯金を続けているのですか?」と尋ねると、彼女は静かにこう答えました。「将来のためです……もし病気になったとき、誰かの負担になりたくないから。」

息子たちはフリシパラの外で働いているため、スルタナは現在ひとり暮らしです。子どもたちにそれぞれ家庭ができれば、経済的な余裕も限られてくることを、彼女自身よく分かっています。それでも前向きに、今は息子の海外渡航ビザの手続きを手伝いながら、いつか三階建ての家が完成する日を楽しみにしています。疎遠になっていた夫の医療費を時折支援することもあるそうです。

HDDPのダイアリストの中でも、スルタナはひときわ強さを感じさせる存在です。彼女は計画的な借入によって資産を築き、再投資を続けることで収入を着実に増やしてきました。少額預金などの適切な金融サービスを活用することで、自立へとあゆみを進めたのです。


*ショホズ・ションチョイは2002年に設立された、低所得層を対象とする非常に柔軟な商品・サービスを提供するマイクロファイナンス機関です。主に預金サービスに重点を置きながら、固定された返済スケジュールや返済期間がなく、融資グループへの加入が不要な融資も提供しています。利益追求ではなく人々の支援を目的としていますが、これまでの運営の中で黒字も実現しています。

執筆:Mercyline Manoj