五常のスリランカのグループ会社、Sejaya Micro Credit LimitedのCEOリザンス・フランシスに、スリランカのマイクロファイナンスの実情とSejayaの取り組み、リザンスのキャリアとリーダーシップについて聞きました。(聞き手:アーリア・ムラリ)
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リザンスさん、本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、これまでのキャリアと、どのようにしてマイクロファイナンス業界に入ったのかを簡単に教えてください。
リザンス: この業界に入る前、漠然と自分はNGOで働くのではないかと思っていました。卒業後、しばらく海外で働きましたが、2005年の津波の後、スリランカに戻り、マイクロファイナンス業界での就職機会を見つけました。それ以来、マイクロファイナンスに携わっています。この分野は大変なことも沢山ありますが、同時に本当に面白いと感じています。
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この分野で約20年間活躍されているのですね。その間、スリランカにおけるマイクロファイナンス業界はどのように変化したのでしょうか。
リザンス: 10年、15年前を振り返ると、マイクロファイナンス業界はもっとシンプルでした。プレイヤーは少なく、ほとんどがNGOか協同組合で、過剰債務や悪質な金融事業者による被害も聞きませんでした。しかし、業界が成長し、利益が期待されるようになると金融事業者はこれをブルーオーシャン市場と見なしました。残念ながら、多くの事業者が顧客保護への十分な考慮なしに参入し、業界は飽和状態になりました。2016年から2017年頃は業界にとって最も難しい時代でした。政治的な動機から、一部の政治家は債務免除を推進し、これが業界をひどく混乱させました。
過去10年間、スリランカは経済の低迷、COVID-19パンデミック、深刻な金融危機など、一連の経済的ショックにも直面しました。これらの出来事により、金融業界は弱体化し高い貸倒率につながりました。伝統的な銀行がリスクを回避するようになるにつれて、特に銀行へのアクセスが限られている農村部で、マイクロファイナンス機関がそのギャップを埋め始めました。低所得者や中小零細事業者向けに小口融資、貯蓄、金融リテラシー教育の提供を開始したのです。この取り組みは、銀行サービスを受けることが困難な層を支え、GDPの成長と経済の安定化に貢献しました。この困難な時期を乗り越えるためにマイクロファイナンス機関の存在は不可欠でした。
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マイクロファイナンス業界がどのように変化し、社会的に弱い立場の人々をどのように支援するようになったかよくわかりました。これほど多くの貸し手が許認可を受けずに事業を行っている中、中央銀行認可の4つのマイクロファイナンス機関のひとつであることはSejayaの活動にどのような影響を与えていますか。また、顧客が複数の貸し手から借入を行っている可能性がある中で、顧客保護の観点からどのような対応をしていますか。
リザンス:それは非常に重要な点ですね。中央銀行の認可を受けていることは、現場で強みになります。顧客に信頼されるのです。顧客は、私たちがガイドラインに従い、責任あるサービスを提供するという安心感があるため、認可を受けていない貸し手との差別化になります。
しかし、その信頼があっても、スリランカのような市場では顧客保護は想像以上に困難です。非常に多くの貸し手が許認可なく活動しており、顧客は複数の事業者から借り入れを行うことができます。差し迫った現金のニーズを満たすために、11もの異なる貸し手から借り入れをしている顧客もいました。60%の金利で借り入れを行う顧客もいます。それが唯一の選択肢だからです。
Sejayaでは、このリスクを非常に真剣に受け止めています。私たちが直面していた最大の課題のひとつは、顧客の信用履歴を確認できる信用情報機関がなかったことです。しかし、中央銀行と財務省に積極的に働きかけた結果、これを利用できることになり、今年度中に与信審査プロセスに信用情報機関による確認を組み込む予定です。Sejayaのローンオフィサーは、顧客自身からだけでなく、グループローンのリーダーやメンバーからも情報を収集することで、徹底した信用調査を行うように訓練されています。インフォーマルなやり方ですが、責任ある融資審査に役立ちます。
顧客が必要な金融サービスにアクセスできると同時に、過剰債務に陥るのを防ぐことが非常に重要です。
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それは深刻な問題ですね。完全にそのようなリスクをコントロールするのは難しそうです。さまざまな困難がある中で、何か楽しみなこと、希望を与えてくれるような取り組みはありますか。
リザンス:はい、Pasioには本当にワクワクしています。これは素晴らしいツールで、顧客にとっても事業を伸ばすチャンスだと思います。Pasioプログラムを通じて、18歳から35歳までの若手起業家に事業性ローンを提供するとともに、ビジネススキルやデジタルリテラシー研修も行っています。オンラインプラットフォーム上で顧客がデジタルストアを作成し、商品をオンラインで販売することができます。
特筆すべきなのは、Pasio顧客の約90%が女性で多くの方々にとってこれが初めてのデジタル金融サービスの利用であることです。これはデジタル金融包摂に向けて大きな一歩だと感じています。
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Pasio以外にも、Sejayaがサービス向上のためにテクノロジーを活用している取り組みはありますか。また、今後数年間でマイクロファイナンス市場はどのような方向に向かうと思いますか。
リザンス: はい、顧客用アプリも提供しています。融資の詳細や返済スケジュールを確認できます。シンプルなツールですが、自分の資金状況を把握して管理する上で大きな助けになります。今後はこのアプリの機能をさらに拡充し、より便利なものにしていく予定です。
将来を見据えると、スリランカのマイクロファイナンス市場はさらにテクノロジー主導の方向に進むと考えています。モバイルアプリ、デジタルウォレット、オンラインでの融資申請や処理が広がり、利便性向上と効率化のために返済額の回収もデジタルで行う事業者が増えていくと思います。
Sejayaもテクノロジーを活用したソリューションを積極的に取り入れることで、マイクロファイナンス分野で強いプレイヤーになることを目指しています。この取り組みの一環として、通信事業者やテクノロジーソリューション会社と積極的に提携を模索しています。個人的にも、このチャンスに非常にワクワクしています。

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Sejayaがローカルコミュニティの価値観を大切にしながら、イノベーションを取り入れている話を聞くことができ、大変興味深かったです。最後に少し個人的な質問で締めくくりたいと思います。長年マイクロファイナンスの分野で活躍されてきて、ご自身をプロフェッショナル、またはリーダーとして簡潔に表すとしたら、どのように表現しますか。
リザンス: シンプルに言うなら、私は 「インパクト志向のマイクロファイナンス実践者」 だと思っています。社会的インパクトと財務的持続可能性は常に両立させなければならないと強く信じています。財務的に強くなければ、社会的目標を達成することはできません。それは2つの車輪のようなもので、両方が一緒に動く必要があります。
それに加えて、私は「CEO」という役割を新しく定義しています。私にとってのCEOは Chief Encouraging Officerです。人々を励まし、挑戦させ、可能性を引き出し、成功を支えることが私の役割だと思っています。これまでのキャリアでさまざまなことを経験し、国際的な場でも働き、自分に何ができるかを知ることができました。しかし、ここSejayaで、これまでできなかったことに挑戦したいのです。他の人が進めるように道を切り拓く存在、それが今の私が目指すリーダーシップのあり方です。
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素晴らしいですね。リザンスさんの哲学である、他者のために道を切り拓く、ということが、顧客保護やPasioなどの取り組みに現れていると感じます。Sejayaのミッションである「誰ひとり取り残さない」とも共鳴する考え方ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
リザンス・フランシス
五常のスリランカのグループ会社であるSejaya Micro Credit LimitedのCEO。マイクロファイナンス業界で17年、経営幹部職で8年の経験があり、そのうち2年間はCEOを務める。経営学の学士号と修士号を取得。事業立ち上げ、赤字部門の再建、ビジネスプロセス策定、製品およびビジネス開発、デジタルファイナンス、助成金管理、リスクマネジメント、総務の専門家。