インパクト評価に携わる皆さまへ

自社が顧客にもたらしているインパクトを、数字で示さなければならなくなったことはありますか? 単なるエピソードや事例にとどまらず、顧客が経験しているポジティブな変化もネガティブな変化も、信頼性をもって説明できるようなフレームワークやデータの収集を、一から設計しなければならなかったことは?

2024年、五常のインパクトチームは、まさにその状況に直面していました。それまでのインパクト測定は、顧客満足度調査や出口調査などを通じて、アウトリーチ(誰にサービスを届けているか)とクオリティ(顧客が商品やサービスをどう体験しているか)に重点を置いており、アウトカム(顧客の生活に生じた変化)については、限定的なものにとどまっていました。

「五常が生み出すインパクトとは何か?」

私たちはこの問いに答えるため、この2年間で独自のフレームワークを開発し、5カ国でインパクト評価を導入しました。

フレームワークを設計する過程は、まるで先の見えない道を手探りで進んでいるような感覚でした。同じような課題や、そこから得られた学びを語っている人がほとんどいなかったからです。そこで今回は、同じようにインパクト測定に取り組む皆さんに向けて、これまでの試行錯誤を通じて得た学びをお伝えしたいと思います。3つのフェーズに分け、それぞれの段階で直面した課題と学びをまとめました。

  1. 設計(Design):フレームワークと測定方法を定める
  2. 調査の実施(Implement):現地で調査を行う
  3. 分析・共有(Analyze and Share):データを分析し、ステークホルダーに報告する

1.設計:フレームワークと測定方法を定める

最初に考えたのは、「ほかの組織はすでに何をしていて、そこから何を学べるか」ということでした。インパクト測定の実務者に話を聞き、世界銀行、CGAP、60 Decibels、Oikocredit、FINCA、Cerise+SPTFのインパクトレポートや調査ツールを参考に、指標のリストを作成しました。最初のリストには50の指標があり、そのうち17がアウトカムに関するものでした。

「顧客のこと、そして私たちの事業が顧客の生活にどんなインパクトを与えたのか、すべてを知ることができたらいいのに!」――当時のチームの熱量を一言で表すなら、まさにこれに尽きます。私たちは、あらゆるインパクトを洗い出しました。顧客が融資をどう使ったか、どんな困難に直面したか、貯蓄や緊急時への対応ができるか、お金のやり繰りに自信があるか、将来に希望を持てているか、食事、教育、衛生環境、住居の変化まで。

この段階では、好奇心が最大の味方でした。リストが長いことは分かっていましたが、急いで削ることはしませんでした。アウトリーチとクオリティの指標の多くは既存のデータから得られるため、その後の数カ月間は、アウトカム指標と、データの収集方法を一から設計することに注力しました。

指標をもとに調査の質問を作成し、スリランカでパイロット調査を実施しました。まず、グループ会社のインパクト・SEPM(社会・環境パフォーマンス管理)担当者に意見を求めました。彼らは、SEPMの推進役であり、顧客の状況と経営陣の考え方の両方をよく理解しています。どの質問が各社の社会的目標に沿っているか、改善のためのアクションにつながるか、顧客にとって分かりやすいか、時系列で比較できるかを見極めました。次に、五常のメンバーが2つのグループに分かれ、7名の顧客に対面でインタビューを行いました。質問が顧客の経験を捉えているか、顧客が質問を理解できているかを確かめるためです。

スリランカでパイロット調査を実施したメンバー

こうして、アウトカム指標を11項目に絞り込みました。しかし、それで終わりではありません。実際の調査はグループ会社のコールセンター担当者が行うため、スリランカのSejayaのコールセンターのスタッフが、20名の顧客に電話による2回目のパイロットを行いました。試しかったのは調査票の使い勝手です。電話越しの調査はどう感じられるか?回答にはどれくらいの時間がかかるか?回答を適切に分析できるか?そして、どの質問を削るべきか?

答えは明らかでした。調査が長すぎたのです。好奇心は私たちを駆り立てる原動力ですが、歯止めをかけなければ、実用的なものからかけ離れていきます。

そこで私たちは「80/20ルール」を取り入れました。調査の第一の目的は、より良いサービスを提供するためのアクションにつながるインサイトを見いだすことです。顧客についてより深く理解することも重要ですが、質問の80%は事業の改善に役立つものでなければならず、顧客を理解するために「知っておくとよい」質問は20%程度としました。たとえば、顧客が生活必需品以外のものや資産の購入にお金を使う余裕があるかどうかは優先度を下げました。生活の質が全体としてどのように変化したかはサービスの改善にとって有用ですが、衛生環境、住居、教育などの詳細は「知っておくとよい」情報と位置づけました。また、顧客が質問に疲れて途中で回答をやめてしまうことを防ぐため、インパクト調査は顧客満足度調査と別に実施することにしました。

徹底的なそぎ落としと議論を重ね、アウトカム指標を8つ、全体で25の指標にたどり着きました。インパクト委員会の承認を得て、2025年、私たちは第2・第3フェーズへと進みました。

この段階で、私は2つの大きな問いと向き合っていました。

  1. 1社あたり300〜400名への電話調査だけで、顧客の生活に生じた変化(アウトカム)を測るのに十分なのだろうか?
  2. 顧客のアウトカムを、私たちの金融商品やサービスによるものだと、どのように判断できるのだろうか?

これを解決するうえで大きな助けとなったのが、他のインパクト実務者との対話でした。Cerise+SPTFのCécile Lapenu氏は、アウトカム測定は精緻なものでなくとも十分に有用な結果が得られると話してくれました。完璧さや網羅性よりも、実用的な測定を目指すことを目指すこととしました。

一方、顧客の生活の生じた変化(アウトカム)がどこまで私たちの金融商品やサービスによるもの判断できるのか、という点はより難しい問いでした。ここで示唆を与えてくれたのは、OikocreditのGing Ledesma氏です。2024年にフィリピンで開催されたCerise+SPTFのパネルディスカッションで、Oikocreditの「顧客自己認識調査(Client Self-perception Survey)」で捉えたインパクトを、なぜ自社の成果だと言えるのかという質問がありました。彼女の答えは、「私たちが捉えているのは顧客自身の認識です。顧客がOikocreditによって生活に影響があったと言うなら、私たちはその声をありのままに受け止めます」というものでした。

五常のインパクト委員会でも、RCT(ランダム化比較試験)、つまりサービスを利用していない類似のグループと顧客を比較する方法で、アウトカムを厳密に検証することは、今回の調査の目的にそぐわないという結論に至りました。私たちが目指したのは、経営判断や業務改善に活かせるデータを、できるだけ短期間かつ低コストで収集することでした。そこで、私たちのサービスとアウトカムの因果関係を証明することよりも、バイアスを最小限に抑えるための徹底したコールセンタースタッフ向けの研修を通じて、信頼性の高いデータを集めることに力を注ぎました。調査結果は、グループ会社のMIS(経営情報システム)に記録された顧客の情報や融資データ、他の調査データとも照合しました。

2.調査の実施(Implement):現地で調査を行う

調査の方法に手応えを得た私たちは、5カ国の連結子会社で、インパクト・フレームワーク刷新後初めてのインパクト調査を実施しました。スクリプトを組み込んだGoogleフォームを作成し、担当者が必要な内容を読み上げ、回答をその場で入力できるようにしました。Googleフォームは無料で、グループ会社の担当者にも馴染みのあるツールだったためです。質問リストは各国の現地語に翻訳しました。まず、各社のSEPM担当者に研修を実施し、その担当者がコールセンターのスタッフに研修を行います。Google Meetのブレイクアウトルームを活用してロールプレイを行い、SEPM担当者や同僚が顧客役となって、実際の調査を想定した練習を重ねました。

オンラインでのロールプレイ形式の研修

多くの調整が必要でしたが、質問がどのように受け止められうるかを学ぶ機会にもなりました。ミャンマーでは、電話詐欺への警戒から、顧客が収入や借入の状況を電話で話すことをためらうことが分かりました。そのため、正確な金額ではなくおおよその概算で回答してもらうほか、MIS(経営情報システム)のデータを活用するなど柔軟に対応する必要がありました。また、「なぜ」という質問がいかに答えにくいかも学びました。「なぜ収入が変わったのですか?」は、「収入がどのように変わりましたか?」よりも、顧客にとってずっと答えにくかったのです。

さらに大きな学びとなったのは、調査担当者にとって、回答の記録がいかに大変かということです。当初は、顧客の回答を一言一句入力することにしていたため、25分にも及んでいたものの、トライアルの段階でこの問題に気づき、質問形式を見直すことで約15分にまで短縮することができました。

多くのことを知りたいという好奇心が調査の負担を増やしていたのです。ここでの教訓は、どこまで詳しい回答を求め、どこは5段階評価(例えば「大幅に減少した」から「大幅に増加した」まで)で十分かを見極めることです。詳細にこだわると顧客の負担が大きくなる一方、簡略化しすぎると回答の背景にあるニュアンスをつかみにくくなります。

3.分析・共有(Share):データ分析とステークホルダーへの報告

1,600件以上の回答を手にした私たちは、いよいよデータの整理、分析と報告のフェーズに進みます。どれだけ多くのデータを集めても、適切に分析され、実際の意思決定に活かされなければ意味がありません。グループ会社は自社のデータを、五常は5社全体のデータを、融資の種類、性別、所得水準といったさまざまな観点から多角的に分析し、その結果を経営会議とインパクト委員会に報告しました。

また、グループ会社の経営陣間の月次会議では、主要な洞察を共有し議論しました。各社のCEOの関心は強く、すぐに取り組める改善策を見出した会社もあれば、新たな戦略の方向性を検討するきっかけとなった会社もありました。なによりも、すべてのCEOが「自分たちが知る顧客の暮らしをリアルに映し出している」と評価していました。それこそが、私たちの取り組みが実を結んだ、何よりの確かな手応えでした。

インパクトダッシュボード

そして、調査を通じた学びを皆さんにお届けできるときがやってきました。2026年9月に公開したインパクトレポートに続いて、インタラクティブなダッシュボードも公表しました。ぜひこのデータが持つ可能性を実感していただければ嬉しいです。10月29日には、調査結果をさらに詳しくご紹介するウェビナーも予定しています。こちらからご参加ください。

また、調査の結果報告をするステークホルダー向けに、少なくとも8種類の分析資料を作成しました。多すぎると思えるかもしれませんが、それぞれの関心に合ったメッセージが必要だったのです。インパクト測定に携わる私たちは、ともすると一つの分析の見せ方にこだわってしまいがちです。しかし大切なのは、その先の行動につなげることです。そのためには、相手にとって最も関連があり、関心を引き出す「ストーリーテラー」として自らを捉える必要があります。

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振り返ってみると、複雑なプロジェクトをいくつかのフェーズに分け、課題一つずつに集中て、一歩ずつ前に進んできました。デザイン思考を取り入れ、小さな検証を繰り返すことで、知りたいことを詰め込みすぎず、完璧さよりも使いやすさを選べるようになりました。その結果、プロジェクトチーム、経営陣、調査を実施しその結果を日々の業務に活かしているグループ会社の担当者とともに、ゴールにたどり着くことができました。

もしも今、皆さんも同じような課題に直面しているのなら、私たちも設計、測定、結果の報告に至るまで、2年をかけて何度も試行錯誤を重ねたことを知って、安心していただければと思います。インパクト測定は、時間をかけて深く考えることが必要です。すべての答えを見つけられなくても焦る必要はありません。大きな支えとなるのは、ともに考え、力を貸してくれる人々の存在です。

最後に、素晴らしい同僚たちに感謝を伝えたいと思います。Haruna、Rania、Mayu、Mercy、Cheriel、Mohini、Arisa、グループ会社のインパクト担当者、五常の経営陣と取締役。一人ひとりの知恵や経験、助言を積み重ね、顧客インパクト・フレームワークは形づくられ、磨き上げられてきました。サポートと助言に心から感謝します。皆さんなしには、ここまで来ることはできませんでした。

インパクト測定は、終着点のない学び続ける旅のようなものです。一つの節目を迎えましたが、まだまだ新たな発見が待っています。これからも、学びを皆さんと共有していきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。ぜひ私たちのインパクト測定の取り組みをご覧いただき、ご意見やご感想はinfo@gojo.coまでお寄せください。また、独自のインパクト・フレームワークの設計について私たちがお力になれることがあれば、お気軽にご連絡ください。

インパクト実務者より

Arya Murali
Impact Lead, Gojo & Company