途上国で暮らす出稼ぎ労働者の家族にとって、海外からの送金は毎月のただの取引ではありません。安定した将来への足場を築くために、必死の思いで手にした生命線です。出稼ぎに送り出す世帯は、家族の貯蓄を取り崩し、多額の借入をし、資産を担保に入れて渡航費用をまかないます。そこには途方もない経済的リスクが伴います。
本ブログで取り上げるのは、バングラデシュの低所得層60世帯を対象とした2026年1月~6月ののHirishipara Daily Diaries(以下、「本調査」)です。Hirishiparaの家族は、中東(ドバイ、オマーン、カタール、サウジアラビア)や東南アジア(マレーシア、シンガポール、カンボジア)に日常的に家族の一員を送り出しています。データからは、出稼ぎ労働者たちが母国の家族をどう支えているのか、その暮らしの実態が見えてきます。
送金手段:モバイル金融が主流
参加者60世帯のうち28%が、この6か月間に少なくとも1回、海外からの送金を記録しました。これらの世帯が受け取った金額は、162件の送金取引を通じて合計197万バングラデシュ・タカ(約1.6万米ドル)*にのぼります。
国際送金といえば、従来の銀行やインフォーマルな現金の受け渡しを思い浮かべるかもしれません。しかし、こうした低所得世帯のデータが映し出していたのは、まったく現代的な光景でした。

図1:送金手段の内訳
*Central Bank of Bangladeshの2026年6月末のExchange Ratesを参照
モバイル金融サービスは、この10年で送金のあり方を大きく変えました。参加者の間で圧倒的な存在感を示しているのは、バングラデシュを代表するモバイル金融サービスのひとつ「bKash」です。この6か月間に130万タカ(約1万ドル)の送金を取り扱い、送金を受け取った世帯の82%がこのサービスを利用しています。一方、従来の銀行送金は25万タカ(約2千米ドル)で24%でした。52%の世帯では労働者が帰国時に持ち帰ったり、親族や知人が現金を持ち運んでおり、「フンディ(hundi)」(金融機関を介さず、仲介業者を通じて匿名で送金行う、信用に基づくインフォーマルな送金ネットワーク)は、わずか3%にとどまりました。
お金のやりくり:頻度と祝祭行事
送金する側は、家族の暮らしに必要なものと、祝祭などの文化的な行事の両方を考えながらお金を送っているようです。

図2 月別送金額と送金件数
少額を頻繁にか、まとまった額を時折か:少額のお金を頻繁に受け取る世帯があります。ある世帯は、海外で働く2人の息子から6か月の間に73回の送金を記録し、それを国内にいる妻たちが管理していました。反対に、頻度は少ないものの、1万から10万タカ(約81~810米ドル)のまとまった額を受け取り、大きな出費に当てる世帯もあります。
祝祭前の増加:送金は宗教行事や社会的な節目に合わせて大きく増加します。今回のデータでは2026年5月に送金が集中し、イスラム教の祝祭であるイード(Eid)の直前に48.9万タカ(約4千米ドル)とピークに達しました。この資金は、家族の祝宴や衣服、宗教儀式などにあてられています。
送金の使い道:貯蓄への再投資
詳しく見てみると、まとまった資金をひとつの用途だけに使うのではなく、いくつもの用途に振り分ける傾向にあることが分かります。

表1 送金資金の使途
表1は参加者の送金資金の使途ですが、ほぼすべての世帯で食費が増加したほか、71%が金融機関に預け入れ、76%が医療費に充てていました。65%を超える世帯が、マイクロファイナンス機関、協同組合、その他のインフォーマルな貸し手からの借入を直ちに返済しています(なかには、出稼ぎのためのビザや渡航費用のために借り入れたものもあります)。さらに24%が住宅の改築に、6%が商品の仕入れといった零細事業への投資に充てました。
地政学の影響
出稼ぎは所得向上への道を開く一方、マクロ経済や地政学リスクの影響を受けやすくします。2026年前半のイランをめぐる紛争の激化は燃料輸入価格の上昇を招き、国内の経済圧力を強めました。5月には消費者物価指数の上昇率が9.4%に達し、食料、電気、燃料、調理用ガスの値上がりは、送金を受け取った世帯でも購買力を圧迫しました。
国際情勢が、生活の危機として降りかかる世帯もあります。ある参加者は、2026年1月から4月にかけて、サウジアラビアで働く息子から合計14.5万タカ(約1.2千米ドル)の送金を継続的に受け取っていました。しかし、イランをめぐる紛争が激しくなると、息子の雇用主は就労許可の費用を負担できなくなりました。息子の仕事を守るため、家族は農地などの資産を売り、インフォーマルな貸し手から借入をし、親族からの援助にも頼って、就労許可の費用を工面しなければなりませんでした。ほかには、「仕事がなくなった」という理由だけで、息子がカンボジアから予定より早く帰国せざるを得なかったといいます。
まとめ
本調査は、出稼ぎ世帯においてモバイル金融サービスが極めて重要な役割を果たしていることを示しています。低所得層の出稼ぎ労働者の送金はインフォーマルで記録に残らないルートを通すことが主流である、と考えられがちです。しかし、本調査が明らかにしたのは、66%と大多数がbKashのようなプラットフォームを通じて行われているということです。こうしたモバイル金融サービスの普及を大きく後押ししたのが、2019年に導入され、2022年には2.5%に引き上げられた、正規のモバイル金融サービスを通じた送金へのバングラデシュ政府による現金インセンティブです。
さらに、世帯のお金のやりくりは、文化や行事と密接に結びついています。それは、イードの祝祭と重なる5月の送金の急増によく表れています。海外送金は、ひとつの家族の暮らしを支えるだけではありません。その資金が貯蓄や地域社会、金融機関にまで幅広い経済効果をもたらします。デジタル金融サービスの普及、季節性要因、地政学リスクへの脆弱性、といった実態を前にして、金融機関は送金の季節サイクルに寄り添う貯蓄商品や保険商品をどのように設計することができるのでしょうか。
Mercyline Manoj
Researcher-in-Residence
























